エアコンの吹き出し口を覗くと見える「回るところ」。そこからカビ臭いニオイがしたり、黒いホコリが見えたりすると、不快なだけでなく健康も心配になりますよね。
その「回るところ」の正体はファンです。この記事では、エアコンのファンの掃除は自分でどこまでできるのか、市販スプレーのリスク、安全な拭き掃除の手順、さらには業者に頼むべきケースまで、網羅的に解説します。
正しい知識で、エアコンを安全かつ清潔に保ちましょう。
エアコンの2つの回るところ
「エアコンの回るところ」と言うと、実は2つの可能性があります。まずは、あなたが掃除したい場所がどちらなのか確認しましょう。
室内機の送風ファン
9割以上の人が「回るところ」として想像するのが、室内機の送風ファン(シロッコファン)です。
吹き出し口の奥にある、細長い筒状の部品で、たくさんの羽根がついています。冷房や暖房の風を部屋に送り出す、まさに「扇風機」の役割を担っています。ここはカビやホコリが最も溜まりやすい場所の一つです。
室外機のプロペラファン
もう一つは、屋外に設置されている室外機の正面に見える、大きな「プロペラファン」です。
これは室内の熱を外に逃がしたり(冷房時)、外の熱を取り込んだり(暖房時)するために回転しています。ここも掃除が必要な場合があります。
ファンの掃除を怠る3つのリスク
室内機のファン(送風ファン)は、エアコン内部で最も汚れやすい部品です。なぜ掃除が必要なのでしょうか。
1. 悪臭やカビの発生源
冷房運転時、エアコン内部は結露で湿度が高くなります。この湿気と、吸い込んだホコリ、皮脂、タバコのヤニなどが組み合わさると、カビにとって最高の繁殖環境になります。
エアコンをつけた時の「酸っぱい臭い」「カビ臭い」ニオイの主な原因は、このファンに付着したカビや雑菌なのです。
2. 健康被害(アレルギー)の原因
ファンが回転することで、カビの胞子やホコリが風に乗って部屋中にまき散らされます。
これらを吸い込むと、アレルギー性鼻炎、喘息、夏型過敏性肺炎などを引き起こす原因になる可能性があり、特に小さなお子様や高齢者がいるご家庭では注意が必要です。
3. 電気代が高くなる
ファンにホコリやカビがびっしり付着すると、風を送る効率が著しく低下します。
設定温度にするために余計なパワーが必要になり、モーターに負荷がかかるため、結果として電気代が高くなることにつながります。
ファン掃除を自分でやる前の注意点
「すぐにでも掃除したい」と思うかもしれませんが、エアコンは精密な電化製品です。DIY掃除には大きなリスクが伴います。
故障や火災の危険性(電装部品)
エアコン内部、特にファンの近く(通常は右側)には、基板やモーターなどの電装部品が集中しています。
掃除中に水や洗剤がこれらの部品にかかると、ショートして故障するだけでなく、最悪の場合、発煙や火災につながる重大な事故の原因となります。
無理な分解は絶対にNG
ファンを完全に取り外して丸洗いするには、エアコン本体を分解する必要があります。これは専門知識と技術が必要な作業です。
素人が無理に分解すると、部品の破損や、元に戻せなくなる可能性が非常に高いです。「自分でできる範囲」を厳守してください。
お掃除機能付きは構造が複雑
「お掃除機能付きエアコン」は、フィルターのホコリを自動で掃除する機能です。残念ながら、ファンのカビや汚れは掃除してくれません。
さらに、内部の構造が通常機より複雑で、電装部品も多いため、自分でファンに触れようとすると故障リスクが格段に上がります。お掃除機能付きエアコンの内部掃除は、基本的にプロに任せることを推奨します。
掃除前の必須準備(電源・養生)
もし自分で掃除に挑戦する場合は、以下の準備を徹底してください。
- 安全確保:必ずエアコンの電源プラグを抜く(またはブレーカーを落とす)
- 養生(保護):電装部品がある箇所を特定し、水が入らないようビニールと養生テープで厳重に保護する
- 汚水対策:エアコン下部と周囲の壁、床を、大きなゴミ袋や養生シートで広範囲にカバーする
市販スプレーは非推奨?メーカーの見解
「エアコンのファン掃除」と検索すると、市販の洗浄スプレーがたくさん出てきます。しかし、ダイキン、パナソニック、三菱電機など多くのエアコンメーカーは、これらのスプレー使用を推奨していません。
メーカーが推奨しない理由
- 洗浄液の残留:スプレーの液を水で完全に洗い流すことができないため、残った洗剤がホコリと混ざり、新たなカビの原因や部品の腐食につながる
- 電装部品への付着:スプレーが基板などにかかると故障・火災の危険がある
- 汚れの悪化:中途半端に剥がれた汚れがドレンパン(水の受け皿)を詰まらせ、水漏れの原因になる
(参照:ダイキン工業株式会社、パナソニック株式会社などの公式ウェブサイト)
保証対象外になる可能性
市販のスプレーを使用してエアコンが故障した場合、メーカーの保証期間内であっても「使用上の誤り」と判断され、保証の対象外となる可能性が高いです。

リスク承知!洗浄スプレーで掃除する手順
メーカー非推奨のリスクを理解した上で、どうしてもスプレーを使いたい場合は、以下の手順と注意点を厳守してください。
必要な道具
- エアコンファン専用洗浄スプレー(フィン用と間違えないこと)
- エアコン洗浄カバー(汚水を受ける袋)
- 養生テープ、ビニール袋(電装部品保護)
- ゴム手袋、マスク、保護メガネ
- バケツ(汚水受け用)
スプレー掃除の手順
- 電源を抜き、徹底的に養生する
- 電装部品(基板)部分をビニールで完璧に覆う
- エアコン全体を洗浄カバーで覆い、汚水がバケツに落ちるようセットする
- フィルターとルーバーを外す
- 外せる部品は外し、別途掃除する
- ファンにスプレーする
- ファンを手でゆっくり回しながら、羽根全体にスプレーを吹きかける
- 電装部品の方向には絶対に噴射しないこと
- 指定時間放置し、すすぐ(重要)
- スプレーの説明書に従い放置する
- 「すすぎ不要」とあっても、汚れや洗剤が残ると故障の原因になるため、霧吹きや噴霧器(水)で軽くすすぐのが理想(※ただし、これが電装部品にかかるリスクも高い)
- 送風運転で完全乾燥
- 養生を外し、部品を戻し、電源を入れ、「送風運転」を最低1〜2時間行い、内部を完全に乾燥させる
安全・推奨!中性洗剤で拭き掃除の手順
故障リスクを最小限にし、安全に掃除するならこの「拭き掃除」がおすすめです。奥の汚れは取れませんが、手前のカビやホコリは除去できます。
必要な道具
- 中性洗剤(食器用洗剤でOK)
- バケツ(2つ)
- 雑巾、マイクロファイバークロス(数枚)
- 細長いブラシ(100円ショップの隙間ブラシなど)
- ゴム手袋、マスク
- LEDライト(内部を照らすため)
安全な拭き掃除の手順
- 電源を抜き、養生する
- 水が垂れる場合に備え、床や壁を養生する
- 電装部品に水がかからないよう注意(スプレー時ほど厳重でなくてよいが、濡らさない意識を持つ)
- ルーバー(羽)を拭く
- 中性洗剤を薄めた液に浸し固く絞った雑巾で、ルーバーを拭く
- その後、水拭き、乾拭きで洗剤を残さない
- 見える範囲のファンを拭く
- ライトで内部を照らす
- 細いブラシや、割り箸にクロスを巻き付けた掃除棒を使う
- 掃除棒に、固く絞った洗剤液をつけ、ファンの羽根に沿って差し込み優しくこする
- ファンを手でゆっくり回しながら、見える範囲の羽根を拭いていく
- 洗剤の拭き取り
- 新しい掃除棒(水拭き用)で、洗剤が残らないよう何度も拭き取る
- 最後に乾拭きする
- 送風運転で完全乾燥
- 養生を外し、電源を入れ、「送風運転」を1時間行い、内部を乾燥させる
室外機の回るところの掃除方法
室外機のファン(プロペラ)自体を掃除する必要はあまりありませんが、その「周辺」の掃除は電気代節約に効果的です。
掃除が必要なサイン
- 室外機の周りに落ち葉やゴミが溜まっている
- 裏側や側面の「フィン(金属の板)」がホコリやゴミで詰まっている
- ファンが回る音が異常にうるさい
安全な掃除の手順
- 必ず電源プラグを抜く(またはブレーカーを落とす)
- 周囲のゴミを取り除く
- ほうきで、室外機の吹き出し口や吸い込み口を塞いでいる落ち葉やゴミを取り除く
- フィンのホコリを取る
- 裏側や側面のフィンに詰まったホコリを、古い歯ブラシや柔らかいブラシで「優しく」かき出す(フィンは非常に曲がりやすいので力は入れない)
- 掃除機で吸い取るのも有効
注意:室外機に高圧洗浄機などで水をかけるのは、故障の原因となるため絶対にやめましょう。(参照:パナソニック株式会社など)
自分で掃除する限界と業者の見極め
自分でできる掃除は、あくまで「見える範囲」です。奥深くにこびりついたカビや汚れは、プロの技術が必要です。
業者に頼むべきサイン
- ライトで照らすと、ファンの奥までカビがびっしり生えている
- 自分で掃除しても、酸っぱいニオイやカビ臭さがまったく取れない
- エアコンをつけると黒い粉(カビ)が飛んでくる
- お掃除機能付きエアコンで、内部の汚れが気になる
- 自分で掃除する自信がない、または故障させるのが怖い
プロの洗浄方法と料金相場
プロは、専用の養生カバーを取り付け、高圧洗浄機と専用洗剤を使って、ファンの奥や熱交換器、ドレンパンまで丸ごと洗浄してくれます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 料金相場 | 通常タイプ:8,000円〜12,000円 お掃除機能付き:12,000円〜20,000円 |
| 所要時間 | 1台あたり 1時間〜2時間程度 |
| メリット | 奥のカビまで徹底除去。ニオイが改善。風量・効きが復活。 |
よくある質問(Q&A)
A1. まず、フィルター掃除は「2週間に1回」が理想です。これを怠ると、ファンの汚れが急速に進みます。
内部のファン掃除(今回紹介した拭き掃除や業者クリーニング)は、「1〜2年に1回」が目安です。ただし、リビングやキッチン近くなど使用頻度が高い場所は、毎年のクリーニングをおすすめします。
A2. ファンの奥にある「熱交換器(アルミのフィン)」や、結露水の受け皿である「ドレンパン」にカビが根付いている可能性が高いです。特にドレンパンは、ヘドロ状の汚れが溜まりやすい場所です。
この領域は、プロの分解・高圧洗浄でないと掃除は不可能です。
A3. 電源を切り、ファンが完全に停止していれば、ノズルで吸うこと自体は可能です。しかし、ノズルがファンに強く当たると破損の原因になります。
また、ダイキンなどは「ほこり取り棒」の使用も破損リスクがあるとして推奨していません。(参照:CLUB DAIKIN)安全性を考えると、強く推奨はできません。
まとめ:安全な掃除で快適な空気を取り戻そう
エアコンの「回るところ=ファン」の掃除について、網羅的に解説しました。
- 「回るところ」は主に室内機(送風ファン)と室外機(プロペラファン)の2つ
- ファンの汚れはカビ・悪臭・健康被害・電気代悪化の原因
- 市販スプレーはメーカー非推奨で、故障や保証対象外のリスクが伴う
- 自分で行うなら、リスクの低い「中性洗剤での拭き掃除」が安全
- ニオイや奥のカビが取れない場合は、無理せずプロの業者に依頼するのが最善
エアコンは精密機械です。自分でできる範囲(フィルター掃除や手前の拭き掃除)をこまめに行い、手に負えない内部の汚れはプロの力を借りる。この使い分けが、エアコンを長く安全に使い続ける最大の秘訣です。
まずはご自宅のエアコンの電源を抜き、吹き出し口を覗いてみることから始めてみませんか?


