「真夏日にエアコンの風が急にぬるくなる」「故障ではないのに頻繁に止まってしまう」……そんな経験はありませんか?
実はそれ、故障ではなく「ピークカット」という機能が電気代を節約するために働いている証拠かもしれません。ピークカットはコスト削減に必須の機能ですが、仕組みを知らずに放置すると、部屋が冷えずにお客様や従業員の不満につながるリスクもあります。
この記事では、ピークカットの仕組みから、快適さを損なわずに電気代を抑える具体的な設定・対策までを網羅的に解説します。仕組みを理解して、賢く快適な空間を作りましょう。
エアコンのピークカットとは
エアコンのピークカットとは、電力消費が最も多い時間帯(ピーク時)に、自動的に運転をセーブまたは一時停止させ、消費電力の最大値を抑える機能のことです。
主にオフィス、店舗、工場などの「業務用エアコン」と「デマンドコントローラー」を連携させて行われます。
仕組みとデマンド制御
高圧電力契約(50kW以上)を結んでいる施設では、電気の基本料金が「最大デマンド値(30分間の平均使用電力の最大値)」で決まります。
ピークカットシステムは、設定した目標電力を超えそうになると自動的に以下の制御を行います。
- 室外機のコンプレッサーを強制停止する
- 「冷房」から「送風」モードに切り替える
- 設定温度を自動で緩和する(例:26℃→28℃)

ピークシフトとの違い
似た言葉に「ピークシフト」がありますが、目的と手段が異なります。違いを表にまとめました。
| 項目 | ピークカット | ピークシフト |
|---|---|---|
| 目的 | 最大使用電力を削減する | 使用時間をずらす |
| 具体的な動作 | エアコンを一時停止・送風にする | 夜間に蓄電し、昼間に使う |
| メリット | 基本料金の直接的な削減 | 電力負荷の平準化(夜間電力の活用) |
止まる原因とランプ表示
「故障かな?」と不安になる前に、リモコンや本体の表示を確認してみましょう。ピークカット制御中は、特定のアサインが表示されることがあります。
集中管理中の表示
ビル管理システムやデマンドコントローラーで制御されている場合、エアコンのリモコンに以下の表示が出ることがあります。
- 「集中管理中」
- 「セーブ運転中」
- 「デマンド制御中」
- 「管理」アイコンの点灯
これらの表示が出ている間は、手元のリモコンで温度設定を変えても反映されない、あるいはすぐに元の設定に戻されることがあります。
家庭用エアコンの場合
一般家庭用エアコンには、業務用のデマンド制御のような強制停止機能は基本的にありません。しかし、以下のようなケースでピークカットに似た挙動をします。
- 電流カット(パワーセレクト)機能:ブレーカー落ちを防ぐため、最大運転能力をあらかじめ50%~80%に制限する設定。
- 省エネモード:人感センサー等が反応し、自動で運転を弱める機能。

導入のメリットとデメリット
なぜ、多少の不便があっても企業はピークカットを導入するのでしょうか。コスト面でのメリットは絶大ですが、デメリットも理解しておく必要があります。
電気代の基本料金削減
高圧電力の基本料金決定の仕組みは非常にシビアです。たった30分でも目標値を超えて電気を使うと、その高い実績値が向こう1年間の基本料金に適用されてしまいます。
ピークカットを導入することで、この「突出した30分」を作らせないことができ、年間数十万円〜数百万円単位のコスト削減につながるケースもあります。
室内環境への影響
一方で、強制的に冷暖房を止めるため、一時的に室温が変化します。「暑い」「寒い」といった不快感につながりやすく、店舗であれば顧客満足度の低下、オフィスであれば業務効率の低下を招く恐れがあります。
快適さを保つ5つの対策
「電気代は下げたいけれど、暑くて我慢できないのは困る」。そんな悩みを解決するための具体的な5つの対策を紹介します。
目標設定値の調整
エアコンが頻繁に止まりすぎる場合は、デマンドコントローラーの「目標電力値」が厳しすぎる可能性があります。基本料金とのバランスを見ながら、目標値を少し緩和することで、快適性が大きく改善することがあります。
サーキュレーターの併用
ピークカットによりエアコンが「送風」モードになった際、空気が止まると不快指数が急上昇します。
サーキュレーターや扇風機で空気を循環させ、体感温度を下げるのが最も即効性のある対策です。
遮熱・断熱対策の強化
外からの熱の侵入を防げば、エアコンが止まっている間の温度上昇を緩やかにできます。
- 窓に遮熱フィルムや断熱シートを貼る
- ブラインドや遮光カーテンを閉める
- 入り口にエアカーテンを設置する
室外機の環境改善
室外機が熱を持っていると、エアコンの効きが悪くなり、無駄な電力を使います。室外機に直射日光が当たらないよう日除けを設置したり、打ち水をして周辺温度を下げたりすることで、少ない電力で効率よく冷やすことができます。
フィルターの清掃
基本的なことですが、フィルターが目詰まりしていると、設定温度に達するまでに余計なパワーを使います。こまめな清掃は、ピークカットの発生頻度を下げることにも直結します。
勝手に解除できる?
「暑いからピークカットを解除したい」と思うこともあるでしょう。しかし、自己判断での解除は大きなリスクを伴います。
強制解除のリスク
多くのデマンドコントローラーには「強制解除」機能がついていますが、これを使用するとデマンド値の監視が外れます。
その瞬間に最大電力需要を更新してしまうと、翌月から1年間の基本料金が高額なまま固定されてしまいます。
どうしても解除が必要な場合は、管理者や電力担当者と必ず相談してから行いましょう。
よくある質問(Q&A)
最後に、ピークカットについてよくある質問をまとめました。
A. 基本的には意味がありません。制御中は集中管理システムが優先されるため、手元で温度を下げても機能しない、またはすぐに設定が戻される設定になっていることが一般的です。
A. はい、起きます。特に冬場の朝一番など、一斉に暖房をつけるタイミングは電力消費が跳ね上がりやすいため、ピークカットが作動しやすくなります。時差出勤や、始業前に順次稼働させる「順次起動」などの対策が有効です。
まとめ:仕組みを理解して賢く節電
エアコンのピークカットについて、その仕組みから快適に過ごすための対策まで解説しました。
- ピークカットは故障ではなく、基本料金を抑えるための重要な機能
- 無理な設定は環境悪化を招くため、設定値のバランスが重要
- サーキュレーターや遮熱対策を組み合わせることで、停止中の不快感を軽減できる
- 家庭用と業務用では制御の仕組みが異なる
「ただ我慢する」のではなく、仕組みを理解して対策を行うことで、コスト削減と快適性は両立できます。
もし現在の環境があまりに不快であったり、エアコンが古くて効率が悪いと感じる場合は、最新の省エネエアコンへの入れ替えや、デマンド設定の専門家による見直しを検討してみてください。まずは現状の設定を確認することから始めてみましょう。
